井戸の神様/寅午
た。牛を外に出し終えたときには、火は小屋の天井にまで這い上がっていた。両手にバケツを持ったお母さんが駆けもどってきた。
「お父さん、水が出ない、
お父さんが駆けていった。お父さんは落胆してもどってきた。寒さで水道が凍ってしまったんだ。冬の時期、このあたりではよくあることだった。みんな呆然と炎のあがる小屋を見つめた。
でも、そのときおばあちゃんが言ったんだ。
「友則、水ならあるぞ。井戸じゃ、井戸に水がある。
このとき、みんな思った。おばあちゃんが火事のショックでボケてしまった、と。
でも、違ったんだ。水はあったんだ。ちゃんと井戸のなかに湧いていたのさ。
駆けつけてくれた近所の人たち
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