種無し葡萄/窪ワタル
てはいなかったのです
ごめんなさい
本当にごめんなさい
北を忘れたコンパスのように
僕は詫びた
でも
あまり悲しくはない
どこかで予期していたし
何より
おっちゃんはもう
苦しまないで済むのだから
ただ
もう二度と
おっちゃんの送ってくれる種無し葡萄は食べられない
あの夏の
おっちゃんの命を繋ぎ留めた
ひと房の記念碑は
もうどこにもない
僕は夏を失ったのだ
詫びきれない夏の背中が
足早に薄まって行く
荼毘に付されて
白い灰になったおっちゃんの骨は
まるで砂みたいだったと
おばちゃんは声を詰まらせながら教えてくれた
まだ梅雨が明けないという日に
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