表題「絵描きはどこかへ行った」/はゆおりいと
た樹の枝のような手は、ゆっくりと
(鐘の音がきらきらと崩れ落ちる煉瓦色の壁に囲まれた部屋には、誰も居ない)
私を指差した。
未だ心だけが空白で、何物にも染まらないまま殺された子供。
赤と黒に瑠璃色を混ぜたような微笑をして、私は、まるで人間の腕のような樹の枝を掴
んだ。幾つかが折れても構わない(動かない)。水底から。青一面の月の光から。
私は、大切な彼女を、引き摺り出す。
(空はもう一面の青色ではなくなってしまった)
(いまにも崩れ落ちそうなこの世界は、水晶のように尖って痛い)
(下らない大人たちは珪石の表面から這い出してしまった)
私は彼女に笑い掛けた。
望まない世界へ、ようこそ。
彼女は赤と青に瑠璃色を混ぜたような微笑をして、答える。
(表情は見えない)
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