手紙 〜春〜/日野 タマ
名前も知らない君に宛てて
手紙を書いてみた
むしりとられた花の発狂
野イチゴの赤の絶叫
青い空の下で散歩しよう
手をつないだら
君の手は汗ばんでいて
遠く聞こえる汽笛の音に
錆び付いた線路は、怯えている。
大相撲中継をずっと見ているような
さみしさが込み上げる
バランスは悪かった
君の左足の、引きずり。に
酔って
前後関係を忘れた
お腹から
魂が抜け出して
暗い部屋で一緒に泣いてくれた
「こんにちは、」
で始まって、
サイダーの泡になって消えた
そんな想いを
白球に込めて大空に放った
野イチゴの赤。が
手紙の上に滴っていた
季節は 春
絶叫が空で鳴いている
ニワトリの身震いの後で、
細かく千切れた手紙が
雪のように舞う
ひとつの季節が終わって
また新しい季節が始まろうとしている
口に含んでいた飴玉は
すぐに無くなる
君と繋いでいた手は
いつのまにか ほどけていて
春風に
甘い蜜の匂いが
少しだけ、溶けていた。
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