スピンオフ/影山影司
その男の父母は頭脳明晰であつたが、いかんせん欠けた人間であつた。
その証拠にその息子は、うんと賢くうんと欠けていた。
彼は幼少の時分、「阿呆として生きねばならヌ」と思うた。
難解な数式を解いた後の名声や
市場を支配して稼ぐ金に
1Bitほどの価値も見い出せなかつた彼は
頭の中に宇宙を作り その外れに蒼い蒼い星を置き
無人の星の真ん中に 黒い黒い高層街を積み立てた
高層街のビルの一つの区画の中にあるアパートの一室
が彼の生きる場所となつた。
現実世界で彼は 広い屋敷の一室の片隅で踞つている白痴の少年で
頭の中での彼は 同じく踞る奇才の偉人
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)