春は来る/松本 卓也
 
会社の屋上から見える山が
今日は少しだけ近くに見えた

霞がかった空を
悠然と跳ね烏が
羨ましくて仕方ない

肩や腰だけじゃなく
心も重い溜息の日曜日
遠くから聞こえる笑い声に
何とも現実味が無くて

時が駆け足で過ぎていく
生きている実感もないまま
春が訪れようとしていて
桜開花予報を聞くたび思う
今年もまた花を愛でる余裕も無く
ただ過ぎていくんだな

押し流されていく事情に
明確な現在が形成されていて
歩き行く人達を眺める視線は
何処か遠い世界を見つめるよう

翼を生やす事ができるんじゃないかと
無邪気に信じていた時期もあった
今はただ自立を守るためだけに
季節も忘れて動き回っている

苦笑いを浮かべたところで
時間は止まってくれやしない
今年も春がやってくる
置いていかれた夢を忘れながら
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