眠れる彼の春/藤原有絵
眠れる彼に口づけをすれば
凍てついた私の身体は溶け出して
彼の中をゆらりと満たす
戸惑いにも似たうすべに色の吐息に
待ちわびた生命たちが歓喜する
みずみずしく謳歌する
すべてが覚醒をすませば
彼は差し出された
小麦色の熱い彼女の手を取り
眠るように また終わる
焼き切れた彼女の歌が
金切りのメロに変わる頃
大人しくお利口な静寂が
頬に女神の口づけをたまわり
残月のような熱雷を手で制す
静寂はただ其処へ佇み
生者の躍動が集約されていく様を
みとめ その肩に手を置き
冷たい眠りへ誘い
其の別れに咽び泣く
感傷と手を繋ぎたがる彼は
最後には私の元
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