長生き/六九郎
はもう食べる必要がないのも知っている
彼はうっすらと覚えている
自分より先にそこへ向かった象たち
大人になる前に死んでいった同胞子象たち
彼は悲しみを感じていない
ただ一頭で静かにそこへ向かっている
彼を邪魔するものもいない
もし、彼が言葉を理解したなら
煉炭集団自殺の記事を読み聞かせたなら
彼は笑うだろうか
彼は「孤独死」も「尊厳死」も知らない
まだ日は高い
暗くなる前に着けるだろう
そして、彼が最後に感じるのは
太陽に照らされた地面の温かさである
誰も引き止めるものなく
嘆くものなく
弔うものなく
喪に服すものなく
思い出すものなく
群れは今日も平和である
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