長生き/六九郎
 

彼の歯はもう十分に草を食むことができない
エナメル質は磨耗し
大臼歯は欠け落ちた

彼は少しはなれたところから群れを見ている
鼻から水をふき出して遊ぶ子ら
群れの中の何頭かは彼の子であり、また彼の孫たちである
彼もまたこの群れの中で育ち、子を育ててきた
群れは大きくなり小さくなりしながら今日まで続いてきた

ここには水も草もある
頭上に輝く太陽は全てを温めている
今日は申し分ない天気である

彼は群れに背を向けゆっくりと歩き始める
気づいたものはいない
夜になっても彼がいないのに気づくものもいないかもしれない

彼は自分が向かうべき場所を知っている
彼はも
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