二十年後/三州生桑
目には涙があふれてゐる。
「さう・・・」
しめやかに彼女は泣き出す。
「さうなの・・・さうだったの・・・」
ほどなく人目も憚らず、駄々ッ子のやうに号泣し始める。周囲の人たちは、我関せず焉と太極拳を決め込んでゐる。
私は彼女を抱きしめ、煙草の匂ひの染み付いた黄色い髪にキスをした。すると、彼女の髪の毛は艶やかな蜂蜜色に変はり、頬は薔薇色に染まり始めて・・・。
蕭々と春雨が降り続いてゐる。目が覚めた時、私も泣いてゐた。泣きながら、彼女が幸福であることを確信してゐた。そして私は、二十年ぶりに帰郷する計画を中止した。
土降るや哀しき夢を見たあとに
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