無題。/影山影司
る事が、恐ろしくなる」
彼女の母はイかれていたが美人だった。
父親は無口な人で僕は一言も喋らなかった。
結婚して三年目、妻は死んだ。餓死だという。
晩年、肉は愚か穀類及び野菜すら食わなくなった彼女は、まるでミイラのように愛らしかった。「だってねェ、汚らわしいもの。他人の死体なんて」並べ立てられた食事に箸を付けない彼女の言葉。僕は悟った。彼女は聖者ではなかった。彼女の一族は聖者ではなかった。
自らの生命に疑問を抱き
自らの生命の継続を辞めた彼女らは
誰よりも身勝手なだけだった。
彼女の死体を庭に埋め、肥料を被せた。
食う事を拒否した彼女の肉はひっそりと苛烈に食い散らかされ
やがて、この大地に溶け込むのだ。
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