線文字Aの女 ★/atsuchan69
けに陽気で残忍な気性をあらわに露出させているかのようで少し怖かった。潮風のはこぶ甘い誘惑が虚空に目覚めを呼びおこす砕けた波の飛沫とともに、すでにテーブルにならんだクリスタルグラスへと、つまり半月状の薄切りの檸檬と女性器そのものを想わせる殻付きの生牡蠣を盛ったステンレス製の皿をまえに鈍く光る黒真珠の耳飾をした巻髪の女が笑うと、私は指を鳴らして若くハンサムなウェイターにワインを注がせた。
いつしか富と名声がテラス席を離れて、帆船のうかぶ海の小波に煌びやかな輝きを与えていた。食事のあと、白い壁と、白い階段のつづく町をふたり歩く。恐ろしく急こうばいの狭く不条理な坂道のそこかしこに、鮮やかなピンクのブ
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