「雨幻」/菊尾
 
枕元には雨の匂い 
室内はいつもより無機質 
コップに挿した一輪は真っ赤な横顔 
衣擦れの音も呼吸も壁に吸い込まれていく 
表情豊かな外形が圧迫するのは君の胸 
心の濃度が薄まると疎通を交わす 
言葉にはしない 
秘密は静寂から生まれたほうがいい 
液体になって境界がなくなって 
零れて気化して天井にも触れるよ 
欠けた僕らは 
肌を隙間なく埋めていく 
幻想のように君が笑う 
人の上辺に寝そべることを 
僕は嫌わない 
不純物だとか言い訳だとか 
誰かの話は通り過ぎてしまったよ 
辻褄が合わなくても楽しめる 
作りが違う 
それは哀しくも幸福な結末 
何本も垂らされる雨の糸 
たどる途中で涙も糸になる 
暮れる一色昼夜 
投げた赤が窓から落ちる 
幻想は嫌だと君が言う 
だから閉じ込めようと 
瓶を探す 
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