communication breakdown (10〜12)/アンテ
 
クリームの匂いがただよっていた


  カプチーノ

学生の頃から通いなれた
いつもひとりきりで来る喫茶店を覗くと
いちばん奥のカウンター席にきみがいた
入り口ちかくでもじもじしていると
目ざとく見つかって
あらどうしたのよ
と手招きをされてしまった
仕方なくとなりに座って
いつものウエイトレスからメニューを受け取って
(もちろん普段はメニューなんて見ない)
悩むふりをしながら
けっこういい感じのお店だね
とお茶を濁していると
突然きみが吹き出して
ぼくの代わりに
いつものカプチーノを頼んでくれた
表面を冷ましてから
一口 二口飲むあいだ
きみはテーブルに肘をついて
本当に楽しそうにぼくの様子を見ていた
そういえば
きみがいつも入れてくれるカプチーノは
この店の味ととてもよく似ている
ふと気がついて顔を上げると
懐かしい人がいた
やっと思い出したの と笑った





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