偽りではなかったけれど/松本 卓也
敢えて見えないふりをしていたのに
思えば僕等はよく似ていたと思う
互いの心模様に霞がかった暗雲さえ
無視できるほど寂しかったのだから
でも君が僕の言葉を拒否したように
僕もまた君の存在を無かったものとして
扱う準備はしていたんだよ
何かを与えあえていただろうかなんて
答えを求める気は一切無いつもり
制限温度の限界で部屋の暖房を動かしても
寒さは一向に止まないのだから
きっと僕等は何かの間違いで出会ってしまったのだろう
そして口付けあった刹那に瞬いた夢を描きあい
現実吹き荒ぶ北風から守りあえた気にったのかもしれない
孤独と言う言葉で片付けるには
ひたすらに空虚な寂しさだけが降り積もる
生温い冬が産んだ甘ったるい幻想は
早すぎるサヨナラと共に掻き消えていく
もはや君の何に心惹かれたのかさえ
思い出せなくなってしまうほどに
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