春へ/佐野権太
 

お袋は
ボケ封じ観音にはじまり
安産祈願の地蔵にまで
まんべんなく
手を合わせている

子は
太い綱を持て余し
しゃがれた鈴を鳴らしている

分厚い階段の木目を踏んで
赤白の境内に立ち、願う

(どうか、おだやかでありますように

放った賽銭が
乾いた音をたてて吸い込まれてゆく
その薄暗い
ひとつぶの行方を覗いていると
子が、肩にもたれた






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