この世界を離れて ★/atsuchan69
 
、僕に言った。「おやじ、酒をくれ。それとこいつに食いものを」
 居酒屋のおやじは、
「かぼちゃと雉肉のだんご汁はどないだ」
 いくぶん押売りのはいった言い方をした。
「うまいのか?」
「どやろ? けど、まずかったら金はとらんとこか」
「そうかい、そいつはいい。――ぼうず、うまくてもけしてうまいというなよ」
「あかん。いらんこと言うてもうたわ」
 父ちゃんに酒をついだあと、おやじは料理のしたくをはじめた。
 客はすくなかったが、ややはなれた席にいるからだのちいさな男がこちらへ来るなり、
「あんた、芸人さんかい」
 いきなり父にむかって話しかけた。
 父ちゃんは上着のひだりポケ
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