この世界を離れて ★/atsuchan69
 

「さよか。残念やな」
「ご親切にありがとうございます」
「ほな、せめてもの気持ち。酒代くらいはあずかってもらいまひょ」
「これはどうも。かたじけございません。ありがたくちょうだいいたします」
「ほなまた」
 父ちゃんはちいさな男を見送って、
「じゃあ、また呑みなおすとするか」
と言った。
 ちょうど僕の料理がはこばれたとき、
「こらあ」
 店の扉をいせいよくひらいて男がひとり立っていた。「おやじ! 酒呑まさんかい」
 その男は見るからにふてぶてしく、義理も礼節もまるで知らないとみえた。おまけにそいつときたら、父ちゃんの右どなりに座ると、「おまえだれや。見なれん顔しとるや
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