レクイエム/石畑由紀子
 
たのはこの子のほうなのに
私もつらかったのよ、と絞り出したところでそれがこの子のなんだろう
この子はきっと私を恨んでいる
あれから十数年独りで懸命にここまで育って
やっと私の元にやってきたのではないだろうか
足は疲れていないだろうか
お腹は空いていないだろうか
夜道は怖くなかっただろうか
私の子供ちゃん、よく頑張ったね



ママ、
 ママ、
耳の中で呼ばれる、私によく似た声
子供はずっと無表情のまま私を覗きこんでいる
寂しかったの?
寂しかったの、私もよ
あれからどうやっても子供ができなかったよ
子供ちゃん、一緒に布団に入って眠ろう
眠れるまで子守唄を歌ってあげる
そのあとで私をどこに連れて行ってもいいから

ママ、
 ママ、
耳の中で子供の心臓が鳴る 笑い声と泣き声が聞こえる
歌うことがなかった子守唄を想う
許さなくてもいいから
もうすこしだけ
こうしていて
こうさせて
いて



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