羽/藤原有絵
指先から綻んでしまったものが
冷たい夜空に還っていく様を
あつあつのコーヒーと見送った
おいで
おいで
手の鳴るほうへ
曖昧なお菓子をあげましょう
左の翼は死んでしまったけれど
私は右利きだから
本当によかったと思っているんです
あなたの処まで
もう飛ぶ事はできないけれど
私はこれから歩いていきます
追いつく事が
例えないとしても
力強く飛翔する
あなたの羽を拾い集めて歩きます
あなたの与り知らぬ処で
生きていく事は
これまで通りだから
これからもきっと
指先から微かな熱を
冷たい夜空に逃がしていく
ぬるいコーヒーは甘さ控えめで
だらしなく伸びたスウェットの袖が
私の抜けた力そのもの
歩いていける果てしない距離
そのもの
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