あの頃/石畑由紀子
 

もう半分まだ半分なんて考えている間に私はそれを飲み干してしまう
ポジティブ・シンキングも渇きには勝てない
まして男なら据え膳には勝てない あの人は私を捨てたのだ


地平と西の空を燃やす巨大オレンジ
一緒に見たい、と即座に脳裏に浮かんだ顔は
恋人ではなかった


    *


地下鉄では向かいのオヤジが10分も私を視姦してきたし
道を歩けば運転席から財布をチラつかせ声をかけてくる
確かに今は心臓だって買える世の中だわね、ところであんたらのプライドは赤札らしい
非売品の私にお手を触れないで下さい


コスモの6Fでは相変わらず身動きがとれなくて参ってしまう
ユニクロを着ることで威厳が保たれ安心している幾千万の人・人・人
今日もつまらない顔をして信号が青になるのを待っている
揃いも揃ってみんなきちんと待っている その群集から抜け出しかつて私は

                             (→ はじめにもどる)




       
(2000.04)

戻る   Point(19)