響け/松本 卓也
 
分らしさが
どれだけ雄弁に今を否定したとしても
誰かの網膜に映し出された道化こそ
偽らざる事実でしかない

誰もが理想的自己に託した望みは
重ねた年月に削れて消え去るのみ
真実は脳の中で新たな妄想を築き上げ
いつしか忘れ行く託された未来

何者にもなれなかった
自分にさえなれなかった
後悔する履歴を振り返りながら
零れていく愚痴を見捨てているだけで

逃げ出す算段を不理解に理由付けし
最低最弱の逃げ腰でしかなくとも
自分は誰にでも負けなかったと言ってのける
恥知らずにだけはなりたくない

悩みが無くて良いなと笑われているだけとして
敗北を重ね見捨てられ続けた生き様の中で
共有する事の出来ぬ財産の中に逃げ道を産まない
自分自身が少しだけ誇らしい時

究極の負け犬が叫ぶ
遠吠えよ、空に響け


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