日常/音阿弥花三郎
わたしは男の帰りを待つ。
待つ時間こそわたしを
存在させる。
つまり待つことによってわたしは
男への愛情を確認している。
しかしそのことを誰にも悟られたくない。
そのため日常の動作は速く 人の目に捉えられない。
同時に誰にも批判できない事実
の錘がわたしを室内に座らせる。
わたしは未だ男と平行に寝たことはない。
なぜなら
男はいつも直立しているから。
このことによって座標軸がつくられ
わたしは絶え間なく水平になれる。 しかし
関数の変化がわたしを眠らせない。
その男のことだが
わたしは顔を知らない。
そしてそれが男のすべてなのだが
わたしに待たれることによって
誰にも見えない存在となっている。
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