ふと あなたは/音阿弥花三郎
 
ふと あなたに呼びかける声がある。
あなたはコーヒーカップを置き
(あるいはオンザロックグラスを置き)
戸口を出てゆく。

   外はあなたにとって
   いつも意外な季節だ
   たとえば あなたの飲みものが暖を取るためだったとしても
   激しい陽差しがあなたの目を焼き
   遠景は陽炎にゆれている

朝 あなたはいつものようにピアノに向かう。
あなたが求めていた風が あなたのひたいの髪をかきあげる。
そのとき あなたに囁く声がある。
あなたは窓を閉じ そしてピアノに向かう。

   そのときのあなたのパンはあなたのパンではない
   そのときのあなたの水差しはあなたの水差しではない

あなたは答えに気づいたことに驚いている。
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