「 ナナメ。 」/PULL.
 
員が切符を見て、渋い顔をしていた。どうかしましたかと尋ねると、駅員は真っ直ぐに首をかしげて、傾いてないと、答えた。そんなはずはないと言い返すと、駅員はさらに首を真っ直ぐにかしげ、いや、これでは傾いてないと、言った。隣の改札では、さして変わらぬほどしか傾いていない切符を持った乗客たちがすいすいと、通り抜けてゆく。彼らは一様にこちらを振り返り、指を指し、二言三言、何事かをひそひそと呟き、階段の向こうに消えて、ゆく。気がつけば、他の乗客の姿はどこにもなく、ひとり、残されていた。駅員はなおも真っ直ぐに首をかしげ、切符を、見ている。
 急いで、いるんです。そう言うと、駅員が斜めに、頷いた。なるほど…だから
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