月面懸想文/沙虹
ドは無いけれど、その痘痕面に書いておくわ。
手触りで確かめて。
鏡、水や硝子に映して見るのは反則ね。
だって、
*
だって、――?
シャトルの名前が「GIS-SYA」とはまた時代錯誤な感じだなあ。
君は勿論ジュウニヒトエで乗ったんだろうね。
重たいー、とか言いながら。
3×80倍の安双眼鏡では確かに見えないね。
実際黴生やしちゃったしさ。
こちらも古式ゆかしくケプラー式望遠鏡で、その文面を懸命に
探してはいるんだけど全然見つからないんだよ。
痘痕面――無論月には負けるよ――も触れてはみたけど
さっぱりだ。
女の心を推し量るよりも月を物差しで測る方がずっと簡単さ。
地球ですすり泣く男の嗚咽は月の処女(をとめ)にはさぞかし
心地よく胸に響くのだろうね。
あ、レモネード買ってきて欲しかったなあ。
――リボンかけたヤツ。
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