イカスミ、痛覚/まりょ
 
の痛みを
君が永遠に体験し得ないこととか
君の言う青と僕のそれがきっと違うこととか
そういうのと同じで
それ自体まるで公平で

僕が忘れていたあのレストランの
僕が絶賛した一品を君は覚えていたことや
君が忘れているだろう去年の今日
僕が君に初めて触れた日だったことなどを
僕らが代わる代わる抱えているのと
同じ公平さで

共有しあう混ざらないあれこれを
目を細めずにみている
やさしさを曇らせないように

夕闇の部屋
ぬいぐるみを抱えたまま
今晩イカスミ無しになっちゃってごめんね
とちいさく君が言う
そのまままどろんでいく君に
クマ死んでるよ、
とだけ言って僕は笑う

 
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