書店にて/
石畑由紀子
でいる
背表紙が色褪せ始めた無名の小説家は店の片隅で
早く見つけて欲しいと願っている
早く見つけてくれと叫んでいる
早く気づいてくれと
気まぐれに、
手にとった一冊の単行本からポタポタと滴がしたたり
私のスカートを濡らしてゆく
それは著者の自意識と想いの深さなのかも知れず
私はこれを棚に戻そうかどうか
迷っている
その迷いもすぐにかき消される 私は未だ見ぬ大量の活字の波に飲み込まれる
(2002.03)
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