月下美人への恋/榊 慧
降りてきてくれるんじゃないかな、って少し期待している。
オレの意識を全て掻っ攫ったその香りは、庭に植えられているどの花とも違っている。
世界で一番、愛しているその花は、この町にはたった一株しか存在しない。
そしてその一株はここにある。
咲いていないはずの、月下美人。
時期を過ぎ、葉だけになった月下美人の鉢植えは、今もここにある。
大切に育てているよ。来年、花が咲いたらまたキミを想って少しだけ泣こう。
キミは今も笑ってる?
愛しい人へ、今日も海を眺めて問い掛ける。
潮騒の他に、応えはないけれど。
それでも、何度でも
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