?時間の扉?/九鬼ゑ女
 
ん中の鍵には
こう刻んであったわ

   『時間の扉』

だからあたしは小躍りしながら
その鍵を
あたしの鍵穴に入れてみたの
ぴったりだったわ
だってね、ちゃんと、かちっと鍵の開く音がしたもの

でも、
向こう側からは、やっぱり
「待っててね」って声がしたので
慌てて
あたしは鍵を抜くと
元の鍵束にそれを返し、またポシェットの奥に仕舞い込んだ

するとさっきの黒猫が
お詫びのつもりなのか
一匹の魚をくわえてあたしの前に置いたのよ

まだ生きていたその?い魚は
透明な時間の釣り糸を口から垂らして
苦しそうにひくひくと身をよじると
ひとこと
こう言って息絶えたわ
「待っててね」

黒猫は
涙を流すあたしを見あげて
一緒に鳴いてくれたんだけどね

でもその鳴き声も、やっぱり
「待っててね」と聞こえた気がして
あたしは思わず耳をふさいで
叫んだわ

そう・・・・
「待っててね」とあたしは
あたしに向かって叫んでいたのよ

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