五階のベランダから見下ろしたところの…as usual/九鬼ゑ女
 
ここは外界という空間から
少しだけ分離された場所
蠢くものは日常という騒音ばかり

音は一秒たりとも静止することなく
切り取られた現実という場面をお供に
わたしのぼやけた心界に
ずかずかと踏み込んでくる
しかも土足でだ

無関心を装いながらも
わたしの足元でネコはしきりと尖った耳を捻り回し
紅い舌は毛づくろいにいとまなく
けれど、ケモノという奴は実にすばしっこいものだ
すぐにヤツは安穏を占領できる時間をみつけたようだ

食い溜めしていた大きな毛玉を一玉
飢え死にした時間の狭間に吐き出すと
忽ちのうちに丸いクッションに早代わり
籐椅子の陽だまりの中で眠り呆けてしまった

わたしはというと
相も変わらず
時間の戸口を開けたり閉めたりで

…あっ、誰かの足音が!

いえ、おあいにくさま
それはいつもの空耳という・・・『as usual』でした


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