フルムーン・ラプソディー/渡 ひろこ
すぐにも振り返って
両手を広げて
受け入れてしまいそうで
崩れ落ちないように
キッと寡黙な蒼い夜を
見据えると
街路樹から逃れて
宙(そら)に泳ぎついた月が
揺るがないオリオン座を
ぼんやり照らす
振り切るように家路に急ぐと
ふと身体が締め付けられるような感じがして足をとめる
いつの間にか天空の斜め45度から
しなやかに降りる月明かりに捕われていた
月の唇から零れ落ちるラプソディーが
投網となって巻きついてくる
大事に纏っていたセンチメンタルを舐め取りながら
ぷっくり満ちていく月
あと一歩の戸惑いと逡巡を
手のひらに乗せ
朧に化粧しながら
ゆるゆると芳醇な茜色を
醸し出す
重ねた思い出を剥ぎ取られ
震えながら見上げると
霞んだベールの間から
捕えた獲物に
うっすら笑った
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