花瓶の底、龍の眼(改稿)/はらだまさる
 
唾液の匂いが 這い回る 蟻の群れみたいで、どこかで電話が鳴る音だけが この宇宙 全体を認識していることに気が付いた 俺は鳥だ、水鳥だ、早く、一刻も早く 飛び立たなければ、俺を待つ親鳥や仲間が心配している、探している、

ひしゃげた地球儀を、俺は水掻きの膜がある手の、歪な爪で引っ掻き、ぺろぺろ、ぺろぺろ、と 全身が鱗だらけになった、この身体を舐め続けるお前は、乾燥した舌を、ブリキのバケツに溜まった 雨水に濡らしては、また優しく舐め続ける そのお前の真っ白な柔らかさが、脈打ち、熱を帯びて、それを眺めながら 俺はまた、嗚咽して汚れた天井に乳白色をぶちまけた、ここは一体 どこなんだろう、俺たちは ここで何を、お前は黙って俺の口に 傷だらけの舌を突っ込んで、少し身体を震わせて、龍の眼が 笑った、花瓶の底で、

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