九月十四日、夜の街灯/白昼夢
 
が落ちていて
木にはロープがくくりつけてありました
首を吊った憂鬱は
夕暮れの空に歩いていったのでしょう
私も首を吊りました
視界がぼやけていく中で、誰かの声が聞こえました
あのときのコオロギが、穴だらけの暗闇の中から手を伸ばしています
空っぽになってしまったから、だから手が伸びてきて
ぐにゃぐにゃになった手足を空に掲げて
砂になっていきました
さようなら

帰り道の街灯は消えていたので、近くにあったマッチを擦ってみました
ぼんやりとした明かりが灯ると、木の陰からスズムシがこっちを見ています
何も言わないスズムシは、ずっと見ていました
使わなくなった包丁を穴に戻して、玄関のドアを開けました
もう帰らなければなりません
別れを告げるその声は
どこかに響いていって
そして消えていきました
「さようなら」


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