循環する夏のぷろぺら/佐野権太
 
後退する夏の左腕をつかまえて
さみしがる頚動脈にあてがい
しずかな熱をからめる

満たされては退いてゆく
寝息の揺りかご
いちばん弱い部分は
あずけたままで

届かないエアメールの
滞空時間に寄り添えば
寝台ごと
ふうわり昇ってゆく

とても
とてもうすく
広がってしまうから
すくって
なんどもすくって
尾ひれからじょうずに

わかってる
わかっているの
ぷろぺらが
うまくいかないから
ああ、ぜんぶ
ひらがなになってしまう

ねえ
つぼみをひらいて
ひらかないで






戻る   Point(9)