難破船/佐野権太
あの日
あっというまに難破した僕らは
流木にもなれずに
世界中の海に散らばった
絶え間なく打ち寄せるくらやみの音色に
安心してしまいそうな
ちいさな木片
ほんの少しの誤り
いくつかの諍(いさか)い
そして、たくさんのバランス
きっと誰もが真剣で
空と海の境界を見つめるまなざしは
誰もが正しかった
ゆるすこと
ゆるしあうこと
あきらめることとは、ちがう
たすき掛けの水筒が
ちゃぷん、と揺れる
忘れてきてしまった
甲板にしみ込んだ
いくつもの、かな、しみが
ひきのばされてゆく
熱い、とても熱い日
波に溶けて
ふるえながら目覚める僕らは
きっと、何度も難破する
―――なあ、あの白いマストが
見えるか
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