夜半過ぎ/松本 卓也
 

いつしか誰にさえ伝えたいことを失くし
単に恐怖から逃げ惑いながら築いた
一人ぼっちの領域を守るだけが
残された現実なんじゃないだろうか

誰かが器の無い夢を語りかける
内心で嘲笑いながら頬を緩めるけど
どれだけ羨ましいかなんて
口にさえできやしない

背中に止まった蝉が最後の言葉を吐き
橋梁に佇む鴉は僕を見向きもしない
振り出した大粒の雨が大地を洗い
僕はもう嘆きの涙にさえ意味を無くした

誰かが生き様に告げる評価はいつも
失敗作か無価値の骨董品のようで
かつて価値を見出した刻まれた言葉だけが
静かに色褪せて消えていく

救われない現実を記した石版には
筆者以外の言葉は刻まれることはない
例え滂沱の涙が流されようとも
例え隠した傷口を広げられようとも

尾を立てて爪牙をむく猫が
見送っていたのは果たして
僕自身だったのだろうか

それとも
電力の足りない街灯が写す
今にも闇に同化しそうな
僕の影なのだろうか

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