白い切符/なかがわひろか
 
行き先の分からない電車に乗っている場合ではない

ドアが開いた
私は乗らなかった
運転士が下りてきた
それでも私は拒んだ

運転士は仕方なく
私を置いて
電車を出発させた
行き先の知らない場所へ
私は行かなくてよかった

私はしばらく待って
また駅員さんが来てくれないかと待っていた
誰も来なかった
私は来た道を戻ろうとしたけれど
出入り口も通路も
何もかもがなくなっていた

私は誰もいないプラットフォームに
一人だけだった
きっとさっきの電車が
ここから抜け出す手段だったのだろう
私はそう思った

私は電車を待った

私はたった一人で
電車を待った

電車はまだ来ない

(「白い切符」)

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