それだけ/松本 涼
 
風の言葉は聴かない
大きな波間に揺られてしまうから

静かに耳を閉じて
心の水底を漂うだけ

哀しみの理由は知らない
日々を馴染ませる湿度のようなものだから

低空で胸を開いて
攫われるだけ攫われてみせるだけ


夢の続きは追わない
この身の呼び名を忘れてしまうから

回転を続ける地表に触れて
まだ此処に在るもの達を吸い込むだけ

君の想いは分からない
後ろに伸びる影を探すようなものだから

愛しさという灯りに向いて
私はただひたすらにとぼとぼと
歩くだけ

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