夏を弔うための三重奏/佐野権太
 
、といって
無防備な私を貫いた
あの夏が
あらわれては
ゆん、と
流れて
風に消える

約束どおり
ここへ来ました
いま
左肘に触れたのは
あなたでしょうか

対岸の樹々の根株を
水面が巡り
すべての藍が
調和を深めるころ
ほら
こんなにも集まって
宇宙

もう
境目がわからない

ありがとう
ほんとうに綺麗だ



三、線香花火

赤く膨らんだ
流線に沿って
ちりちりと
這いあがる
いのち

やがて
惜しげもなく散らす
花々の
ほとばしる
ちから

優しさを流しながら
ふるえる珠
の重さを
指先に残した
夏の余韻

鎮(しず)かな
御守りに触れると
墨色の気配が
肩甲骨に抱きついて
みぃと啼いた
戻る   Point(31)