かなしみをもたない/夕凪ここあ
 
しこで
ゆびさきのやさしさ
に出会ってしまう
せいで
いつまでも
忘れられない


近いうちに
引っ越そうと
思うの

伸びた襟足
よれた袖口
かなしさが
こぼれだして
きみの手のひらを
はなした
ときみたい
だった

さよなら
と口に出そうとして
輪郭をもう
忘れかけて
いる

そうして
どうしようも
ないほどに
私のゆびさきは
深爪で

かなしみばかりを
いつまでも
かじって
いる
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