パパのうそつき。/阿片孫郎
てきたのは違う人なんだよ、たぶん。
そんなときは私のおなかは縮こまっちゃうようにすごく痛くなって、泣きそうになるけど、泣いちゃうとママに気づかれちゃうから声が出ないようにがまんする。いい子だから。
パパのうそつき。
ママのこと独り占めしたかったくせに自信がなくなっちゃたんだ。パパ。
今すぐに帰ってきて、そしてママのことを抱きしめてあげて、「愛してる」って言ってあげて、ママに。
面倒くさいってゆわないで。うそつきはだめなんだよ。私ちっとも幸せじゃないよ。
「ねえ、ママ。どうしてパパは帰ってこないの?」
ママの手が止まり、下唇をちょっと噛んで泣きそうになったけど、なにかを振り払うように毅然と顔をあげて私の眼をじっと見たの。
「パパはね、もう、ママのこと嫌いになっちゃったんだって」
「今日はどこに行くの?」
「電車にのっておでかけよ」
「かばんもなんにも持ってかないの?」
「いい子だからね、ちゃんとお靴をはいて、いっしょにいきましょうね」
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