月夜の逢瀬/渡 ひろこ
 

見つからないと思ったのです


湖畔の森影で恋人との逢瀬に
時の経つのも忘れていたとき
雲の切れ間から俄かに出た月明りに
湖面がキラキラ光り出し
その光りが反射して
人妻の左手の薬指にはめた指輪が
夜空に向けて輝きだしました


途端に天を駆ける蹄の音とともに
黒い馬に乗ったメフィストが姿を現わし
あっという間に銀の矢を放ち
人妻の胸は射抜かれてしまいました


メフィストは倒れた人妻を抱えると
また天高く昇って闇夜の彼方に
消えてゆき



人妻が倒れた跡には
その血で染まった忘れな草が
毎年 紅く花を咲かせるようになりました・・・

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