落とし穴通り/なかがわひろか
落とし穴を掘った
たくさん掘った
通り行く人たちが
すこんすこんとはまっていった
はまった人のいる穴に
名札を立てかけて
名前なんて知らないんだけど
名札があった方が便利だから
名札を立てかけて
その上から
砂をたくさん放り込んで
また元通りにして
その人の名前のついた
通りにして
また新しい人が
穴にはまったら
同じ様に
名札をつけて
砂で元通りにして
たくさんの名前のない
名札のかかった通りができて
僕はそこを歌いながら踊りながら
歩いて
すこんと
自分で掘った落とし穴にはまって
それはとても深くて
誰も砂で埋めてはくれなくて
誰も名札を立てかけてはくれなくて
そこは通りにすら
なれなくて
僕は名前も存在も
なくて
(「落とし穴通り」)
戻る 編 削 Point(7)