故郷にて/円谷一
 
 君の東京で作った歌がこの場で異常に浮いていた 空を見上げると流れ星が流れるかと思った けどそんな君と逢える奇跡みたいなんてことは起こらなかった
 最終のバスに乗って昭和通りを過ぎて大町で降りる 森病院の横の堤防を降りて野球場のベンチに腰掛ける 大変な吹雪だ ここで朝になるまで待っている 川の流れは時代に乗り遅れた僕を待ってくれない 鮭の川上りはもっと上流で行われたはずだ
 意識を取り戻すと春の陽気が雪を溶かして色取り取りの植物が顔を出していた 僕はギターを弾く真似をして君の歌を歌った 涙が込み上げてきて寸でのところで堪えた 東京で頑張っているだろうか 始発のバスに乗って亡くなった祖父の家のあった売り地をぼんやりと見ていた 解け残った雪の隙間から一輪の背丈の短い蒲公英が咲いていた
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