月影/雪間 翔
 
夜、高台に吹く風は 
ほどよい冷気と湿り気を帯びて 
ふわり 
汗ばんだ髪をすり抜けて 
着古したスエットを撫でて 
僕の涙をもさらってゆくのです 
「昔、イカロスという天使は 
父親から授かった翼を背に 
太陽を、目指したんだ」 
独り言は今夜だけ、ふたりごと 
すぐ横の君の横顔は月と同じ色で 
「けれど、父親の言い付けを守らずに 
太陽に近付きすぎたイカロスは 
真っ逆さまに、落ちたんだ」 
いつかどこかで聞いた話、柔らかなデジャヴ 
まぶたに心地よい風圧を感じながら 
君はふふと笑って 
「その天使はどうして 
月を目指さなかったのかしらね」 
僕もつられてあははと笑って 
唇が唇で塞がれると 
長い夜が急速に明けてゆくのを感じるのです
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