あまのがわ/前田ふむふむ
 
遠く遅れてゆく、わたしの視線。

動かないものは、あすには、忘れられて、
思い出という柩のなかに、
石鹸の泡のように、仕舞われていくだろう。
暗闇のなかで、その化石にひかりをあてて、
感傷に耽る地表にだけは、秒針は止まっている。
その透明な、真新しい休息を、
動いているものが、踏み固めてゆくのだ。

急ぎ足で、ビルに迷い込んだ、一羽の椋鳥が、
サバンナを逃げ惑う、シマウマのような眼に、
飲み込まれまいと、慌てて、ときの歪に身をかくす。
見上げれば、原色の空は、
刺すように言葉を、起立させている。

動いている。
わたしは、矢のような姿勢で、動かなければならないのか
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