「 夫の背中。 」/PULL.
 






夫の背中には口がある。
だから夫は、
背中を向いて、
わたしにしゃべる。

夫の丸い背中はいつも白いワイシャツに包まれている。
背中は、
わたしがご飯ですと言うと、
「ああそうか。」
と、
ごもごも返事をする。
背中越しに茶碗と箸を掴み、
前の口でくちゃくちゃ音を立て、
夫は、
食べる。
わたしが音を立てないでくださいと言うと、
「ああそうか。」
と、
返し、
しばらくすると、
またくちゃくちゃ音を立てて食べる。

夫は服を身に付けたままする。
夜といわず朝といわず、
夫は、
いつも求めてくる。
服を着たまま、

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