幻視顕微鏡/嘉野千尋
 
たら
  いつのまにか硝子壜の中に
  青い薔薇が咲いていました。
 
  *

  好きですと言うたびに
  だんだん透明になっていく人に
  もう好きですと言いませんと言ったら
  すっかり透明になってしまいました。

  *

  音楽室のピアノの、壊れたままの鍵盤、
  恋をしている誰かが弾くときにだけ
  綺麗な音で響いては、
  音符をパラパラと降らせていました。

  *

  雨が止んでも傘を差していた人の
  青空色の傘の上にはずっと
  小さな二重の虹がかかっていたけれど、
  傘の持ち主だけが気付いていないようでした。

  
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