我が家のピエロ/加藤泰清
 
いあがろうとするのにやつはぼくの卓上への侵入を阻止する。領地侵犯? まさか!「ここはぼくのいえなんだ。じゃまをするな。みにくいくずめ」ぼくは罵声を浴びせた。なのにピエロもどきは力なく、にやついている。たちまち水位はぼくの首が浸かるまでに達した。卓は水面に不安定に揺れながら浮かんでいる。ピエロもどきは頭が天井にぶつかって少しもたたずんでいられずに、(力なくにやついたまま)水の中へ飛びこんだ。水面はますます白いもので溢れ、奴が飛びこんだあとには付け鼻が残った。これが彼の、もどきの、いわゆるひとつのけじめであると確信したのはつい数時間前のことだが、この時水面からくちびるをつきだし必死で息を吸いながら立ち泳ぎしてるぼくも必ず気づいているに違いない。そっと手をのばして付け鼻をつかんだ。やけに生温かくて、ぶにぶにしていて、おなかの中の時の事を思い出した。
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